北陸大学は「やばい」のか|薬剤師を50年送り出してきた石川の私大と偏差値35の見え方

北陸大学と検索すると「やばい」「Fラン」が並びます。ところが実際は、石川県金沢市で50年にわたり薬剤師を養成し、北陸三県で働く薬剤師のおよそ4割を送り出してきた大学です。
偏差値35という見え方と、地域医療を支えてきた実績の食い違いがどこから来るのか。薬学や国際、就職のデータで順に確かめていきます。
この記事の目次
北陸三県の薬剤師の4割を送り出してきた大学|出発点は薬学だった
北陸大学の姿を正しく捉えるには、この大学が何から始まったかを知るのが早道です。北陸大学は1975年、薬学部を中心とした大学として石川県金沢市に開学しました。以来50年、地域に薬剤師を供給し続け、旺文社パスナビによれば、これまでに輩出した薬剤師は10,060人(2025年3月卒業まで)。北陸三県で働く薬剤師のおよそ4割が、この大学の卒業生だとされています。
これは偏差値の数字だけでは見えてこない事実です。地元の病院や薬局に卒業生が広く根を張り、その先輩たちのネットワークが後輩の実習や就職を支える。薬学部の志望理由に「北陸の医療で働く卒業生が多く就職に有利だと感じた」という声が並ぶのは、この蓄積があるからです。北陸大学を「やばい」と一言で片づける前に、まず地域医療の土台を半世紀支えてきた大学だという出発点を押さえておく必要があります。
偏差値35という数字と、薬剤師国家試験の距離
数字を具体的に見ていきます。河合塾のデータでは、北陸大学の多くの学部・学科はボーダーフリー(BF)、つまり模試で合否判定が出ないほど入りやすい水準で、一部の学科に偏差値35.0が設定されています。全国的に見て受験難易度が低いのは事実で、この一点が「Fラン」「やばい」という検索につながっています。
ただ、入口の入りやすさと、卒業時に求められる水準は別物です。北陸大学薬学部の薬剤師国家試験合格率は、2025年の新卒で75.34%。国家試験は入学時の偏差値とは無関係に、全国共通の基準で合否が決まります。入りやすい入口を通った学生が、6年かけて国家資格に届く水準まで引き上げられている、という読み方もできるわけです。偏差値35という数字は入学時点の一断面にすぎず、その先で何が起きているかまでは語ってくれません。
座席が埋まりきらない大学|充足率83.3%が示す入りやすさと、その裏側
Fランをめぐる不安でよく出てくるのが「潰れるのでは」という声です。ここは数字で冷静に見ておきます。北陸大学の収容定員充足率は83.3%。定員に対して在籍学生がやや少なく、座席が埋まりきっていない状態で、募集人数に届いていないという意味では、確かに入りやすさの表れです。実質的に全入に近い学部・学科があるのも事実で、そこは正直に受け止めるべき点です。
一方で、この充足率をただちに危機の証拠と読むのは早計です。北陸大学は薬学部で退学・留年が生じやすい現状を自ら把握し、2016年に薬学部退学・留年防止委員会を設置して、入学年度別の退学率・留年率を教授会に開示しながら対策を続けています。数字の悪い部分を隠すのではなく、自分で開示して手を打っている大学だということです。座席が余っている入りやすさと、教育の質を保とうとする姿勢は、切り離して見る必要があります。定員に届いていないことは入学希望者にとってむしろ入りやすさですが、それが即「危ない大学」ではありません。
「やばい」という声の中身を三つに分けてみる
では、なぜこれほど「やばい」「恥ずかしい」と検索されるのか。声の中身を分けると、大きく三つの型に整理できます。ひとつ目は、いま見た偏差値の低さ・BFという入試難易度そのものへの不安です。数字が全国基準で低いのは事実で、これは避けようがありません。
ふたつ目は、過去の不祥事にまつわる古い評判です。ネット上では数十年前の学内トラブルが今も引用され、それが大学全体の印象を重くしています。ただ、これらは現在の教育内容や学生生活とは切り離して見るべき、時間の離れた出来事です。三つ目は、薬学部特有の留年・国家試験というプレッシャーが「きつい」「やばい」という言葉に変換されて広まっている点です。薬学は6年制で国家試験が待つ以上、どの大学でも学びは楽ではありません。三つのいずれも、大学が今まさに崩れているという話ではなく、入試難易度・古い記憶・学びの厳しさという、別々の事柄が「やばい」の一語に束ねられているのが実態です。
国際性で北陸私学8年連続No.1|英語と中国語という、もう一つの軸
薬学と並ぶ北陸大学のもう一つの顔が、語学と国際教育です。THE(Times Higher Education)とベネッセによる「THE 世界大学ランキング日本版2025」の国際性分野で、北陸大学は8年連続で北陸私学No.1に選ばれています。偏差値ランキングとはまったく別の物差しで、地域の私立大学の中では際立った評価を得ているわけです。
その中身が、国際コミュニケーション学部(2027年に人文社会学部へ名称変更予定)です。1年次に英語と中国語の両方を学び、2年次から言語を選ぶという、二言語を土台に据えたカリキュラムが特徴です。観光やビジネスで中国語圏との関わりが深い北陸という土地柄を踏まえた設計になっています。外国人教員や留学生が集まる学内カフェで日常的に外国語に触れられる環境や、北陸で唯一というエアライン合格プログラム(ECCエアライン学院との提携)もあり、語学を軸にしたい受験生には偏差値の数字だけでは測れない価値があります。
卒業後どこへ行くのか|薬剤師と、地元で働く語学系
「就職できない」も検索される言葉ですが、学部ごとに実態を見ると評価は変わります。薬学部は、北陸三県の薬剤師のおよそ4割を輩出してきた実績どおり、地域の病院・薬局を中心に卒業生が広く進んでおり、国家資格を土台にした就職の安定感があります。地元医療に卒業生ネットワークが張り巡らされていることが、そのまま就職の後ろ盾になっています。
語学系も堅調です。国際コミュニケーション学部は毎年ほぼ100%に近い就職率を公表しており、旅行・ホテル・空港などの観光系、メーカーの国際部門や商社などの貿易系に加え、金融系へ進む学生も多いとしています。大学が公表する近年の就職先には、金沢市や石川県の行政・教員、日本航空、コマツ系のメーカーなど、北陸を中心とした企業・自治体が並びます。全国区の知名度で勝負する大学とは土俵が違うだけで、地元就職という戦い方では確かな実績を持っているのが北陸大学です。
入試方式と学費、金沢に分かれた2つのキャンパス
最後に、進学を考えるときに実際に確かめておきたい点を整理します。入試は一般選抜のほか、共通テスト利用や推薦など複数の入口があり、薬学部には国公立大学並みの学費で学べる特待生奨学金の制度が用意されています。学費や奨学金は学部で条件が異なるため、志望学部ごとに公式サイトで確認するのが確実です。
キャンパスは金沢市内に2つに分かれています。本部・経済経営学部・国際コミュニケーション学部・医療保健学部が集まる太陽が丘キャンパスと、薬学部の薬学キャンパスです。JR金沢駅からバスで太陽が丘まで約30分、薬学キャンパスまで約35分と、市の中心部からはやや離れており、通学の便を課題に挙げる声もあります。これは地方の大学に共通する特徴でもあります。志望する学部がどちらのキャンパスに属するかを含め、通学の現実を事前に確かめておくと、入学後のギャップを避けられます。
判定と、受験前に確かめておきたいこと
整理すると、北陸大学は偏差値35・BF中心で、収容定員充足率も83.3%と入りやすい大学であり、その点では「入りやすい」という評価は事実です。ただし、これは崩れかけている大学の姿ではありません。50年で1万人を超える薬剤師を送り出し、北陸三県の薬剤師のおよそ4割を占め、国際性では北陸私学で8年連続No.1という、偏差値とは別の実績を積み上げてきた大学です。「やばい」という言葉が指しているのは、入試難易度・古い評判・薬学の厳しさであって、大学そのものの危うさではありません。
受験を検討するなら、大学名についた評判ではなく、志望する学部の学びと国家試験・就職の実績、そして自分が通うキャンパスの立地を個別に確かめるのが確実です。薬剤師をめざすのか、語学を軸にしたいのか。目的がはっきりしていれば、偏差値の一点で足を止める必要はありません。
よくある質問
北陸大学はFランですか?
河合塾のデータでは多くの学部がボーダーフリー(BF)で、一部の学科に偏差値35.0が設定されており、入試難易度は全国的に低い水準です。収容定員充足率も83.3%で入りやすいのは事実です。一方で、北陸三県の薬剤師のおよそ4割を輩出し、国際性で北陸私学8年連続No.1という実績があり、入りやすさと大学の中身は分けて見る必要があります。
なぜ「やばい」「恥ずかしい」と検索されるのですか?
偏差値の低さとBFという入試難易度、数十年前の古い不祥事がいまも引用されること、薬学部の留年や国家試験の厳しさが「きつい」という言葉に変換されること、この三つが重なっているためです。いずれも大学が今まさに崩れているという話ではありません。
就職は弱いのですか?
薬学部は北陸三県の薬剤師のおよそ4割を輩出してきた実績どおり、地域の病院・薬局への就職に安定感があります。国際コミュニケーション学部も毎年ほぼ100%近い就職率を公表し、観光・貿易・金融や、金沢市・石川県の行政/教員、日本航空、コマツ系などへ進んでいます。地元就職では確かな実績があります。
薬剤師国家試験の合格率はどのくらいですか?
北陸大学薬学部の薬剤師国家試験合格率は、2025年の新卒で75.34%です。国家試験は入学時の偏差値とは無関係に全国共通の基準で判定されるため、入りやすい入口と卒業時の水準は分けて考える必要があります。大学は退学・留年防止委員会を設けて教育の質の維持に取り組んでいます。

相川 直樹