日本工業大学は「やばい」のか|火災事故の記憶と、旋盤を回す実工学教育の中身

日本工業大学を検索すると「やばい」の語がついて回ります。ただしその出所は偏差値の低さそのものより、2016年の火災事故という固有の記憶に寄っている面が大きいです。
偏差値35という数字の裏で、実際に旋盤を回し建物を建てる実工学教育が動いています。数字と中身を分けて確かめます。
この記事の目次
「やばい」という検索が示すのは、偏差値より2016年の記憶
日本工業大学と一緒に打ち込まれる「やばい」は、学力そのものへの評価だけで生まれた言葉ではありません。決め手になっているのは、2016年に東京・明治神宮外苑で開かれたイベント「TOKYO DESIGN WEEK」で、同大学の学生が制作した木製ジャングルジムから出火し、5歳の男児が亡くなった火災事故です。工学系の学生が関わった作品での火災だったこと、そして幼い命が失われたことの重さから、この出来事は大学名と結びついて長く記憶されました。
つまり「やばい」の少なからぬ部分は、偏差値の数字ではなく、この痛ましい事故の記憶が検索の言葉として残り続けているものです。学力の話と、過去の事故の話は、本来は別の軸で語るべきものです。進学先として見るなら、いま在学して何を学び、卒業後にどこへ進んでいるのか、という現在の中身を分けて確かめる必要があります。
偏差値35と充足率92.2%が同じ大学に同居している
日本工業大学の偏差値は、学科によっておおむね35.0〜37.5の範囲にあります。私立の理工系大学のなかでも低めの水準で、いわゆるFラン圏と見なされるのはこの数字が理由です。ここは事実として受け止めておくところです。
一方で、同大学の収容定員充足率は92.2%です。定員に対して9割超の学生が在籍しているという意味で、志願者が集まらず定員を大きく割り込んでいる大学とは状況が違います。偏差値が低いことと、学生が集まっていないことは、必ずしも同じではありません。埼玉県南埼玉郡宮代町という立地で、工学に特化した単科系の大学が、この規模の在籍を保っているという事実は、数字の低さだけでは説明しきれない中身があることを示しています。その中身が、次に見る実工学教育です。
カレッジマイスターと7つの工房|授業で本物を完成させる
日本工業大学が掲げる看板は「実工学教育」です。基礎知識や理論を、実験・実習・製図といった手を動かす技術と同時に学ばせる学修システムを、全学的に敷いています。その象徴が「カレッジマイスタープログラム」です。
これは、小型旋盤や茶室といった具体的な実物を、企画から設計・製図、生産・施工まで一貫して自分たちで完成させる体験学習と、それに対応する工学の講義を並行して学ぶ仕組みです。シミュレーションではなく、実際に物を作り上げるところに軸があります。この取り組みは2005年度に文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」に採択されており、大学が思いつきで名乗っているものではありません。プログラムを通じて所定の総合力を身につけた学生には「カレッジマイスター」の称号が贈られ、2005年からこれまでに約670名が誕生しています。偏差値という入口の数字ではなく、在学中に何を手に入れられるかで見ると、この大学の輪郭は変わって見えてきます。
学内に動く工作機械がある|工業技術博物館という固有の資産
キャンパス内には「工業技術博物館」があります。ここが他の多くの大学と一線を画すのは、明治期からの工作機械を、単なる展示物としてではなく実際に動かせる状態で保管している点です。産業を支えてきた機械が、静態保存ではなく現役の状態で並んでいる施設は、工学を学ぶ環境として珍しいものです。入館は無料で、一般にも開かれています。
ものづくりの教育を掲げる大学は各地にありますが、その歴史そのものを動く実物として学内に抱えている例は多くありません。手を動かす教育という言葉を、施設のかたちで裏付けている資産だと言えます。機械や工作の歴史に関心がある人にとっては、進学先を選ぶ際に一度足を運んでみる価値があります。
製造・建設・インフラに開く就職|求人1万5千社の内訳
就職の中身は、この大学を評価するうえで最も実務的な材料です。日本工業大学には、ものづくり業界の企業を中心に、2024年3月卒業生実績で15,817社からの求人が寄せられています。求人の絶対数が確保されている土壌が、まず前提としてあります。
主な就職先には、製造では小松製作所、THK、ミネベアミツミ、日産自動車、SUBARU、三菱自動車工業、日立製作所など、建設・電気設備ではきんでん、関電工、日本電設工業などの名前が並びます。派手な業界ではありませんが、製造業・建設業・インフラという、技術系の人材を継続して必要とする分野に厚く送り出しているのが特徴です。就職率も各種の進学情報で90%台と報じられています。学内では年間650社以上を招く合同企業説明会が開かれ、キャリアの専任職員が個別に支援する体制が組まれています。偏差値の入口が低くても、出口が技術職に接続しているという構造は、この大学の一番の実利です。
進学前に、現実的なところも見ておく
良い面ばかりでなく、割り引いて見るべき点も押さえておきます。まず、偏差値35前後という数字は事実であり、共通テストの得点率でも全国平均を下回る水準です。学力で難関を突破したという肩書きは付きません。周囲の目や学歴フィルターを気にする進路なら、そこは正面から受け止める必要があります。
また、口コミの一部では、建築系の1級建築士合格実績は健闘している一方で、分野によって強み弱みに差があるという声もあります。学びたい分野が、この大学の実工学教育や工房のテーマと噛み合っているかどうかで、得られるものは大きく変わります。逆に言えば、手を動かして物を作りたい、製造や建設の技術職に就きたい、という目的がはっきりしている人にとっては、偏差値の数字以上に相性の良い大学です。数字の低さに怯むより、自分の目的と大学の中身を突き合わせて判断するのが、後悔しない選び方です。
よくある質問
日本工業大学はFランですか?
偏差値はおおむね35.0〜37.5で、この数字だけを見ればFラン圏に分類されます。ただし収容定員充足率は92.2%で、定員を大きく割り込んでいる状態ではありません。偏差値の低さと、学生が集まっていない状況は別の話として見る必要があります。
「やばい」と言われるのはなぜですか?
偏差値の低さもありますが、大きな要因は2016年に学生制作の木製ジャングルジムで起きた火災事故の記憶です。学力評価そのものより、この過去の出来事が検索の言葉として残り続けている面が強いです。
就職はできますか?
2024年3月卒業生実績で15,817社の求人が寄せられ、就職率は各種の進学情報で90%台と報じられています。小松製作所、THK、ミネベアミツミ、きんでん、関電工など、製造業・建設業・インフラの技術系職種への就職が中心です。
他の大学と違う点は何ですか?
手を動かす「実工学教育」が軸で、旋盤や茶室などの実物を企画から完成まで作るカレッジマイスタープログラム(文部科学省の特色ある大学教育支援プログラム採択)があります。さらに学内の工業技術博物館では、明治期の工作機械を動く状態で保管しています。

相川 直樹